建築家の先生って何?

むかし、昔つぶやき

私がまだまだ若い時、有名建築家って聞くだけで名前を出しあって正直、作品もよく知らずただ夢中になって話し合っていた頃 少し名前の知れた建築家の先生のアルバイトをさせてもらうチャンスがありました。

その先生が担当した新築の引き渡しに同行させてもらった時、先ず 

目を引いたのが要塞のような3m近い分厚い木の立派な門! その重い扉を開けて入った家は、窓から収納まで全てが既製品でない凝った造りの木造建築でした。

「わぁ凄い~」と小躍りして観ていた時、施主の奥様が、白木の床を指さして恐る恐る先生に「ここは、ワックスをして良いでしょうか・・?

何しろ小学生の息子達が、泥足で帰ってきて走りまわるので・・」 「それは、止めてください折角の白木の木目が、死んでしまいます」と先生。

その後先生のいない時、奥様が、私に耳打ちしました。

「この踊り場には、3個も照明がついて肝心の欲しい所についてない。キッチンには、コンセントが欲しい場所にない・・先生は、男性だから料理を作らないから・・」その時の彼女の絶望感に満ちた目は、何十年も経った今も忘れられないです。

誰が毎日這いつくばって床の雑巾がけをするのか・・・

暗い不便なキッチンで料理を作るのか、凝りすぎて メンテナスもできない機器、あのやたらに大きな門を開けて入る毎日、腰が痛くなる・・・そう思うと、その家の全てが色褪せた写真の様に見えて

ガラガラと私の中で何かが壊れたようでした。

家は、家族の器、笑い声や泣き声、時には怒鳴り声があっても毎日が、安全で快適で 汚れても壊れても子供が伸びのび育つ器。

       先生は、このお宅を【僕の作品】とのたもうた・・・

カッコつけていた理想論と卒業できたようでした。           それから紆余曲折の人生でしたが今も私の指針となっている出来事でした。